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となりを歩いているのが心地よかった。
こつこつ とぼくの足音が響いて、こつこつこつこつ ときみの足音が響いて。
それがとても、とても心地よかった。
今までだれかのとなりを歩いて心地よくなったことはない。
むしろ、ぼくが こつこつ と歩くとその後ろやとなりを ばたばた と駆け抜ける音がひどく耳障りだった。
どんなに親しい友人でも、時折、そんな風に感じた。
けれど、きみのとなりを歩いてはじめて感じた。
海の中を歩いているような、メロディーの中を歩いているような、不思議であたたかい温度。 「おはよう、観月くん」 「おはようございます、さん」 きみのとなりを歩く機会はめったになかったけれど、どんなに短時間だったとしてもその時間はぼくにとって永遠より尊く、刹那より甘い時だった。 その時ばかりはぼくの背中に乗っている鉛玉みたいなものはなくなり、代わりにやさしい風が、日の光がある。 そんな時間がぼくはどんな時間よりも好きだった。 「ねえ、はじめ。鋏知らない?」 「そのくらい自分で管理しなさい」 ばたばた と騒がしくきみは部屋の中の散策していた。 暴れると埃が立つからやめなさいとほんの数分前に言ったばかりだ。 時折なにかものが落ちる嫌な音が部屋の中に響き、それと同時にきみは悲鳴のような叫び声のような声をあげた。 「まったく・・貴方という人は・・・」 「ごめん・・」 「鋏なら僕のペンケースに入っているものか引き出しの二段目のものがあるでしょう」 「あ!そっか!」 また ばたばた と足音を立ててきみは走って行ってしまった。 きっと昔のぼくであったら、不快に思っただろう。 ぼくは今もだけれど、騒がしいものが嫌いだ。 下品に笑う人間の声も嫌いだし、意味もなく声の大きい人間も嫌いだ。 うるさい足音も、嫌いだ。 けれど、なぜだろう。 きみのものだけは、特別だった。 昔も、今も。 「中学の時はあんなに淑やかだったのに・・」 「それははじめの前だけだったって前も言ったでしょ?」 「まさか猫を被られていたとは・・今でも信じられません」 あはは、ときみは花が咲いたように笑った。 中学の時の控えめな笑顔よりも、それは輝いて見えた。 きっときみが猫を被っていなかったとしても、ぼくはきみに惹かれていただろう。 どんなに足音がうるさくなっても、どんなに笑い声が大きくなっても。 その時間が、世界でいちばん、大切な時間だということになんら変わりはなかった。 それがなによりの証拠だ。 「」 「なに?」 「これに名前を書きなさい。書いたらすぐに出かけます」 その時間を確実な永遠に、当てのない刹那に。 きょとん、としてから顔を赤くしてほほえんだきみを、やっぱりぼくは心の底から、なによりも好きなのだと、愛しているのだと、何度目かわからないけれど感じた。 |
二人の足音