ぼくの瞳に映るせかいは、貴方の瞳に映るせかいとは違っていたのです。
ぼくの瞳に映るせかいは、どうしようもなく汚くて無慈悲だったのです。
空に浮かぶ雲はただ視界を遮っているだけのもの。
暗闇にひかるイルミネーションはただの電灯。
都会の隅に生えている植物はただのオブジェ。
ぼくの瞳に映るせかいは、どうしようもなく現実的だったのです。
これを浮世と呼ぶ以外、なんと呼ぼうか。
ぼくはこのせかいの そこ を見て生きていたのです。
ぼくにとってせかいはどうしようもなく、かなしくて、現実的だったのです。
聞こえてくるのは耳をちぎりたくなるほどに聴き難いにんげんの悲鳴。
見えるのは褪め切った写真のような冷たいせかい。
感じるのは今にもぼくを刺すかもしれないくらいの殺気。
拭っても拭い切れないそれらは、休む事なく、ぼくを襲い続けていたのです。
けれど、貴方の瞳に映るせかいは、輝いていると言いました。
貴方の瞳に映るせかいはいつでもきらきらしていて、汚いものはない、と。
空に浮かぶ雲は青い空を飾りつける装飾品で、
暗闇にひかるイルミネーションは星で、
都会の隅に生えている植物はそこに生きている生命体なのだと。
貴方の瞳に映るせかいは、まるで絵本のせかいのようだ、と。
貴方はこのせかいの そこ を見て笑っていたのです。
貴方にとってせかいはどうしようもなく、いとしくて仕方ないものだったのです。
けれど、それは、本当に、せかいなのでしょうか。
ぼくはせかいの そこ を見ているのです。
貴方はせかいの そこ を見ているのです。
ぼくたちの見ているせかいは、どれもこれも、違っているのです。
ぼくの見ているせかいを貴方に見せたら、貴方はなんと言うでしょうか。
貴方が見ているせかいをぼくが見たら、ぼくは何を思うでしょうか。
「ティエリア、なに見てるの?」
「・・・・・地球を、見ていた」
「地球?ティエリアが珍しいね」
ここから見る地球は、青と緑と白に覆い尽くされています。
ぼくにはそうとしか見えません。
貴方の瞳に、あの球体は、どんな色で、どんな形で、映っているのでしょうか。
「きれいね、やっぱり」
瞳を閉じても、見えてくるのはせかいの そこ だけでした。
瞳を開くと、貴方は瞳を閉じていました。
貴方は瞼の裏に、何を見ているのでしょうか。
そこにせかいの そこ がありますか。
そこにきらきらのせかいがありますか。
そこに、ぼくは、いますか。
瞳を閉じてせかいのそこを見る
♪2008/10/27