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僕の初恋はよくあるパターンに当てはまったものだった。 近所に住んでいる一つ上の、姉のような存在の人。 歩けるようになった頃から僕はいつも彼女のあとをついて回っていたらしい。 僕はいつも彼女と一緒でないと駄々をこねたとかこねなかったとか。 正直思い出したくない思い出ナンバーワンだ。 僕の初恋自体はよくあるパターンに当てはまっている。 が、唯一よくあるパターンでないところがある。 それは、 「璃宮!見てこれ!」 「…なに、それ」 「昨日の小テスト!これすごくない?90点!」 「…すごいんじゃない」 僕が未だに彼女を、好きでいるところだ。 僕みたいなパターンの初恋をした人は十中八九、分数を習うくらいでこの想いをなくしてしまう、と思う。 姉のような存在の人だったり近所のお姉さんという存在は小学校くらいまでならほとんどの人が憧れるものだと思うし、それを恋だと思う人だってたくさんいると思う。 けれど僕のように高校生になってもずるずるとそれを引きずる人なんてそういない。 僕を弟のように思っている相手をずっと好きでいるなんて、普通ならありえない。 そう言い切れる。 威張って言うようなことじゃないけど。 「そこは”すごいね!すごいよ!”って言うとこなんじゃないのー」 「…昨日、夜遅くまで勉強してたんだから当たり前でしょ」 「璃宮って本当あれだよね…なんかあれだよね…」 は赤いペンで90点と書かれたテスト用紙を鞄に仕舞いこんだ。 僕はそんなを横目で見ながら自転車の前かごに自分の鞄を入れる。 続いても鞄を僕の鞄の上に乗せるようにして入れる。 僕は何も言わない。 これがもう当たり前だからだ。 中学生の頃は「鞄が潰れるからやめてくれない?」「えーいいでしょ、重たいんだもん」という掛け合いがあったが、今ではそれすらない。 それに僕の中ではが鞄をそこに置くこと、イコール、「一緒に帰ろう」ということなのだと勝手に変換されている。 と、いうかそういうことなのだと思う。 実際鞄をそこに置かない日だけは部活やら委員会やら、何でなのかは知らないけど、一緒に帰らない。 だから鞄を置かれることには文句を言わない。 何があっても絶対言わない。 「璃宮って本当に背伸びたよね。昔はちっちゃくてかわいかったのに」 「当たり前でしょ、男なんだから」 「縮んでよ」 「無理言わないでくれる?」 は昔の僕の方が、どうやら好きらしかった。 一日に一回はそういうことを言われる。 そう言われることが僕は好きではなかった。 当たり前だ、いつまで経っても僕を弟としてしか見ていない証拠なのだから。 かといって一人の男として見られるのも嫌だった。 弟扱いされている方が、の中で僕が特別でいるような気がして。 「私が伸びればいいのか!」 「…別にどうでもいいんじゃない」 「だってー!また璃宮おんぶしたいし!」 「いつの話してるの?」 僕は、昔のも好きだけれど、やっぱり今のが一番好きだ。 昔は邪魔だと言って短くしていた髪は、今では艶のあるきれいなロングヘアーで、動きづらいからとあまり穿かなかったスカートは、今では毎日のように穿いているし、僕より細くて小さいし、おんなのこのにおいがするし。 昔もかわいかったけど、今の方がずっとかわいい、と思う。 絶対本人には言わないけど。 「璃宮はずーっと私の後ろをちょこちょこついてきてたんだよ。覚えてる?」 「…覚えてない」 「かわいかったのになあ」 そう懐かしがるを見ていつも、いつも、すごく嫌になる。 今の僕は好きじゃないってこと? そう何度も言いかけては喉の奥に追いやってきた。 そういうときは決まって、の顔を見るのが嫌になった。 「ちゃん、ちゃん、って。かわいかったなあ、本当に」 「…あっそ」 「今はツンツンして、なんか冷たいんだもん」 「…」 「またそうやって無視する!」 「昔は昔、今は今、でしょ」 後ろばかり見て、昔の僕ばかり見て、今の僕はこれっぽっちも見てくれない。 だからきっとの中で僕はずっと、弟のような存在でしかないのだと思う。 とっくの昔から僕は姉ではない、一人のおんなのことしてを見ているのに。 伝え損ねの好き 「(なんていうか、今は、かっこよくて困るんだよなあ)」 私はそう頭で呟きながら璃宮の顔を見る。 昔は私より低い位置にあったその顔。 思わず見惚れてしまうほどにかっこよくて、好き過ぎて。 璃宮がこっちを見た瞬間、恥ずかしくて思いっきり顔を背ける。 「(昔だったら、普通に手とか、つないでたのに)」 触れ合うことのなくなった手。 またつなげることができたらいいのに。 昔のように、何の躊躇いも恥ずかしさもなく。 「(昔に帰りたいなあ)」 ありのままで素直だった昔の自分が、ひどく羨ましく思えた。 |