死にたい、そう心の中で呟いて何度目だろうか。 何故だろう、そう自分に問いかけて何度目だろうか。 「わからない、でも」 そう言ってナイフを握って、涙を流したのは何度目だろうか。









「カワイソウって言ってほしいわけ? カワイソウにねえ、ツライだろうねえ。 もう大丈夫だよ、だって君は一人じゃない、僕がいるからね。 そう言えば君は満足するの?」


母親に無理やり連れてこられたのはカウンセリングだった。 そこには黒髪の男がいて、私を連れてきた母親には爽やかに笑って「お母様は待合室にてお待ちください」と言った。 男と私、二人きりの静かな空間。 そこに放り出された瞬間、男は私の目も見ずにそう吐きだしたのだ。 あまりの衝撃に、私は男の背中を見つめたまま何も言えなくなっていた。 男はドアの前でくるりと方向転換してこちらに顔を向ける。 真っ黒な短い髪に、少し白い肌、やや細身の体。 年は二十代後半といったところだろう。 まだ真新しい白衣には染み一つ付いていない。 瞳は確実に私をとらえていて、瞬き一つしない。 男は私の方へこつ、こつ、とゆっくり歩みを進める。


「最近さあ君みたいな子すっごく多いんだよ。 "なぜだかわからないけど死にたいんです"、"一人ぼっちな気がして怖いんです"ってね。 僕はさあ一応こういう仕事しちゃってるからその話をぜーんぶ真面目に聞いてあげるんだけどさあ、正直つまんないんだよね 今日も聞くのもうやだから何にも喋らないでよね。 あと先に言っとくけど死にたきゃ勝手に死ねばいいし、友達できないのもいても信じられないのも君のせいだから」


部屋に「ハハ」という男の乾いた笑い声が響いた。 男の目は笑っていない。 私をとらえたまま動かない。 笑ってもいないし、怒ってもいないし、悲しんでもいない。 私は一体なぜここに連れて来られたの、カウンセリングを受けに連れて来られたんじゃないの。 そんな疑問と一緒に恐怖にも似た感情が体中を巡る。 じわり、と手のひらが汗をかく。 今すぐにでも部屋から出て行ってしまいたかった。 私をとらえたままの男の目から逃げたくて、逃げたくて、逃げたくて。 ぎゅうっと両手で服を掴んだとき、男がちょうど私の前で足を止める。


「僕は君を助けたりしないよ。興味もない。何より、君みたいな子は嫌いでね」


つん、と鼻先に男の指が触れる。 男の冷えた笑顔が視界の隅っこで異様なほどに闇を放つ。 伸びた男の爪が鼻先に刺さって、痛い。 男の放つ闇が心臓を抉って、息苦しい。








殺人カウンセラー











(2011/05/04)



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