昔から薄く淡い色が大嫌いだった。 だから春に咲く桜も、夏夜の朧げな月も、秋の落ち葉も、冬のちらつく雪も、大嫌いだった。 すべてをぼやかして、自らもぼやかして、そのまま溶けて消えてしまいそうで。












きえたくないよ、   。




夢を見た。 真っ白な空にのぼっていくあなたの夢を。 地上からぼんやり見上げるわたしにあなたは手を伸ばして、ささやくような小さな声で呟いていた。 そんな小さな声じゃあ何も聞こえないわよ、そうわたしが言ってもあなたには聞こえていないようだった。 しばらくすると、静かに涙を流したあなたが、まるで幼いころのわたしのようだった。 犬に追いかけられてこわくてこわくて、泣いてしまったわたしをいちばんに見つけて助けてくれたあなた。 あんなに頼れる背中だったのに、いつしか少し触れただけで倒れてしまうくらい小さいものになってしまっていた。 「ぼくはね、ついていなかったんだよ」、そう寂しそうに呟いたあなたをわたしは思いっきり、遠慮なしに引っ叩いた。 悔しかったのよ、何もしてあげられない自分が。 八つ当たりで引っ叩かれたのに、あなたは笑ってわたしの頭を優しくなでてくれた。 わたしの頬に温かいものが零れ落ちて、それを見てまたあなたは笑っていた。




   、ぼくはね、やっぱりついていなかったんだよ。




真っ白な空に薄い水色が流れ込んでゆく。 そこにあなたの好きだった薄いピンク色の桜の花びらが舞い上がる。 きもちわるい。 薄い色合いがぼんやり輪郭を消して、今にも消えてしまいそう。 いやよ、ねえ、いかないで。 伸ばされた手をつかもうとしたけれど、宙をかくだけだった。 あなたは寂しそうに笑って、「ほら、ついていない」と呟いた。 腹が立ってまたあの時みたいに頬を引っ叩いてやろうとしたけど、また宙をかいただけ。 どんどん真っ白な空が薄い水色に浸食されていく。 薄いピンク色の桜の花びらがそれに重なる。 きえないで、きえないで、きえないで。 お願いだから、もう一度だけ優しくわたしの名を呼んで、もう一度だけ、やさしくわたしの頭をなでて、   。




ぼくはね、   が、




強い風が吹いた。 薄いピンク色の桜の花びらが一斉に襲いかかってきた。 思わず目をつむると世界は黒に染められて、あなたを見失った。










(2009/11/08)



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