しとしと、と冷たい雨が暗澹の館に降り注いでいた。 緑の森に囲まれている館は今日は白い霧に囲まれていた。 去年の夏にかけたままの風鈴が、穏やかな風に靡いて心地よい音を奏でる。 頭が ずきずき と痛む。 雨の日はいつもこうだ。 こんな日に限って資料保管庫は出入りができなくなっている。 何もすることのない休日なんていつが最後だっただろう。 こうして、のんびりしている暇がおしい。 のんびりするなんていう時間の使い方は長く忘れていた。


「・・・どうしようか、トヲル」


自分の中にいるもう一人の自分(とは言っても双子の兄だけれど)に話しかける。 トヲルはどうやら居眠りをはじめたらしく、返事がなかった。   トヲルは、今の状態に不満を抱いていないの?   そうトヲルに問いかけたことがある。 幼いころは二人で仲良く、手をつないで野原を駆け回ったり川で遊んだりした。 けれど、今じゃ、手をつなぐことすらできない。 誰よりも何よりもいちばん僕の近くに居てトヲルの近くに居るのは僕たちなのに。 手をつなぐことが、できない。 23歳にもなって兄弟で手をつなぐなんてことは恥ずかしいから、できたとしてもしないけれど・・・そんな簡単なことができない、それが、僕にはとても悲しかった。




俺だってさあ、




頭の中に声が聞こえた。 「起きたの?」と問いかけると笑いながら カヲルがいっぱい考えるから、頭痛い と呟いた。 「ごめんね」、そう言うと怒った声で なんで謝るんだよ と少し頭の中を叩かれた。 ・・・これ、地味に痛いんだよね。 「うん、ごめん」と笑うと、意味わかんねえって と小さい頃のままの笑い声。 なんだかそれが、切なくて。




・・・なんで泣くんだよ。




苦笑いした声が聞こえる。 「泣いてないよ!」と返す。嘘はついていない、僕の瞳に涙は浮かんでいない。 トヲルはなんで、僕が泣いたなんて思ったんだろう。 トヲルの前で涙を見せたのなんて、ずっと昔が最後だった。




顔見れないからわかんねーけど、中は泣いてる。




ずきずき と痛かった。(どこが、なんてわからない。ぜんぶが、ぜんぶが痛い。)  大丈夫か? トヲルのやさしい声が頭にひびく。 そんなわけはないけれど、トヲルが、昔と変わらないやさしい手で、頭をやさしくなでてくれた気がした。







やさしい記憶
手をつなげなくても、抱きしめられなくても、
ずっといっしょ。






(20090404)
No name...の登場人物・カヲルとトヲル。
二人は双子だったけれど、ひょんなことからカヲルの中にトヲルの人格が入ってしまって二重人格になってしまった兄弟。


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