第七章
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「もう会えないものだと思ってた」
翌朝、ホテルのロビーを出るとルルがいた。
「何故ですか?」
彼女はそう聞いた。
「直感。なんとなく」
ルルは微笑んでから、
「駅まで送ります」
二人肩を並べて歩いた。
朝日を照り返す雪道を歩く。不思議と寒くはなかった。
駅に着くまで、会話はなかったと思う。
前だけを向いて。足の、つま先のほんの少し先を見て、転ばないように歩いているだけで、息がはずんで、たぶん笑っていた。
会話は必要なかった。
すぐに駅に着いてしまったというのもあるだろうか。
列車を待つ間、ベンチに座り、お茶を飲んだ。
お茶はルルが水筒を持ってきていて、それを交互に飲んだ。
遠足じゃないんだから。
私がそんなことを言うと、彼女は不機嫌を装って、頬を膨らました。
私達の前を幾人もの人が通り過ぎる。
朝の駅は喧騒に包まれていて、全ての人の体に、陽射しが乗りかかっていた。
列車の時刻表を見上げる。
「次の列車だ」
まだ時間に余裕はあった。少し早過ぎただろうか。
「京都、どうでしたか?」
ルルはそう言った。
「うん。料理がさ、おいしいかった」
ルルは笑った。
私も笑った。
「あと、景色がいい。家の背が低くて、高い建物が無くって。イブキから見ると全部が見渡せてさ」
ふっ、と。
沈黙が私達の前に現れた。
急にあたりの喧騒が退いたかのようだった。
「イブキ……」
ルルはぽつりと言った。
「イブキ、壊れちゃいましたね」
私は、頷いた。
「……ごめんね、ルル」
「どうして謝るんですか」
ルルは笑みを携えていた。
「あれでよかったんです」
「……ごめん」
イブキの生き残った部品はほとんどなく、その多くが熱にやられていた。
「私が無理をさせなければ、再生の見込みもあった」
「スミレさん。違いますよ。イブキは壊していいんです」
ルルは言った。
「壊れることを恐れていたら何もできません。壊してはいけなものがあるとするならば、それは魂ですよ」
「魂……」
「息吹です」
彼女は笑った。
「また造ればいいじゃないですか。イブキなら、何度だって蘇ります。それを成し遂げようとする人がいる限り」
でもその時は、と彼女は付け足した。
「兵器じゃないイブキにしてくださいね」
ルルは少し表情を曇らせた。
「……スミレさんは、やっぱり、これからも兵器を……会社に残るんですか?」
私は彼女をしっかりと見つめ返した。
「うん」
私は答えた。
「それしか、生き方を知らないんだ」
それから。
「私以外の人間にイブキを造らせられない」
そう思った。
「甘いかもしれないけれど、私が兵器を造る。他の人間なんかに任せられない。誰かがやらなければいけないというのなら、私がやる」
「いつかは……」
ルルは、困ったような、笑ったような、複雑な表情をした。
「そんなもの必要ないんだって、無くても平気なんだって、言える日が来るといいですね」
「きっと来る。絶対に」
列車が私達の前に現れ、ゆっくりと停車した。
私達はぎりぎりまで話しをしていた。
私は列車の扉に、ルルはホームに立って。
これからのことをたくさん話した。
雪も溶けて春が来ることや、手紙を書くこと、明日の天気や、今日の占い。
列車発車の合図が鳴った。
「スミレさん。どうか元気で」
私が言葉を返そうした直後、扉が閉まった。
私は扉に手のひらを当てた。
ガラス越し。
彼女は手を重ねてくれた。
ほんの一瞬だったけれど、手と手が合わさった。
ルルの手は小さかったけれど、きっときっと、人はその手で何かを変えられる。
この愛おしい世界を車窓から見つめて、私は思った。
綺麗だ。
おわり