「ユーリはさ、どうしてボクを『ボス』だって呼んでくれてたの?」





日差しの強い日だった。


太陽はちょうど頭上の真上にあり、一日の中でいちばん暑い時間帯に差しかかっていた。
まるで真夏のごとく肌にピリピリと刺す光を感じながら、ユーリは長い髪を無造作にかき上げる。

ちらと店のほうを見て、いつまで待たせる気だと内心すこしため息をついていた。


買い物に立ち寄ったトリム港で食糧を買い込んだユーリは、先に待ち合わせ場所にいたカロルと二人で
他の仲間を待つことになっていたのだった。



少しでも涼めればと思い噴水のそばに腰掛けていたのだが、さえぎるものもなく直に降りそそぐ日光に
そろそろ辟易していたところだったのだ。


日陰に移動することを提案しようとユーリが考えていたとき、カロルがふいにまじめな顔で訊いてきたのだ。

思わずこちらが目を丸くしたのに気付いたのか。
カロルはすぐに視線をはずしてうつむいた。両手には果物の詰まった紙袋が抱えられている。その姿を見てユーリは苦笑し、
彼の肩をたたいて店の軒下の日陰の方に親指を向ける。


しばらくうつむいたままだったカロルは何度目かでようやく気付き、照れたように笑って立ち上がった。






*






日陰に移動すると、すでに彼の相棒が石畳の上で丸まって日陰の一区画を占拠していた。その様子を見て、
動物は過ごしやすい快適な場所を見つけるのがうまいと一人ユーリは妙に感心していた。

口に出したわけではなかったが、まるでこちらの考えを読み取ったかのようにラピードは非難の視線を向ける。案の定気に食わなかったようだ。



ユーリが「悪かった」と片手を挙げて合図すると、その様子を見ていたカロルが

「すごいね。やっぱり犬や猫はどこが涼しいかわかってるんだ」

案の定、気に食わなかったようだ。

怒ったラピードをなだめるのにすこし苦労することになった。


しばらくして、その場から立ち去っていく姿を見送りながら、ユーリがちらりと横を見ると
やはりカロルは先ほどよりも落ち込んだ様子でうなだれていた。


「気にすんな。あいつが犬扱いされるのを嫌がるのはいつものことだ」

つとめて軽い調子で声をかけると、カロルは小さくうなずいた。
そしてやはり小さな声で話し始める。

「ユーリはすごいね、ラピードの言いたいことがわかってるなんて。信頼し合ってるってことなんだよね」
「まあ、長い付き合いだからな」
「いつから一緒にいるの?」

前から訊いてみたかったと、カロルは興味深そうに耳をかたむける。

「オレもフレンもまだ子どものときからだよ。ラピードもまだ小さかったけどな」



ある意味兄弟に近いかな、と当時のことを思い出しながらユーリは笑みをこぼした。



「ずっと人と一緒にいたせいだろうな。あいつときどき自分のこと人間と同じつもりで行動してるときがあるんじゃねえかな」
「確かにそうかも」



ユーリとのやり取りを見てたら余計そう思えてくるよ、と言いながらカロルも同意する。
一緒に笑いながらもどこか寂しさをにじませた様子に、ユーリはさりげなく答えた。



「オレだってあいつの言いたいことが全部分かるわけじゃない。きっとあいつだってそうだろ」
「そうかな・・・」








店先のほんのわずかな日陰には、石畳の先からじわじわと熱が迫る勢いだ。カロルは肩から提げていた水筒を取って水をひと口含む。
それを見ていたユーリは黙って彼の言葉を待つことにした。

さいわいなのかどうなのか、目の前ですれ違う人混みに注意してみても、まだ知った顔が現れる気配はなかった。


背後の石造りの壁にもたれかかると、組んでいた腕の片方に下げていた剣の先が壁に触れてカシャン、とわずかに音を立てた。
すこし離れた港の方向からは、せわしない人々のざわめきに混じってさざ波が聞こえてくる。





「ユーリは待つの好きなほう?」
「・・・・あんまり好きじゃないな」

この状況でその質問かとユーリは思わず苦笑したが、たずねたカロルもあはは、と笑って自分の質問のおかしさを認めた。
そしてもう一言添えるように言った。



「でもボク、待たされるのは嫌いじゃないんだ」



いつの間にかカロルも壁に背中を預けていた。両手に抱えている荷物をよいしょ、と抱えなおした。

「だって『待たせる』『待つ』って、『相手が来る』『待ってる』って信じ続けることだよ。お互いに意識してなくても、
見えない絆みたいなものがあるからそういうことができるんだよ、きっと」

「今のオレたちみたいに、か?」

含み笑いしながらユーリが言うとカロルは「うん」とやけに神妙に応えた。





「ボク、ユーリに『ボス』って呼ばれるたびに、背中を預けてくれてるんだって思えてうれしかった。
でもそういう気持ち以上に、すごく重たいものが胸にずっしりきてつらかったんだ、実は」




これがカロルの思い切った告白だということに、ユーリは気付いていた。
だから特に何も言わず、相づちを打つことだけに徹していた。彼の決心が揺らぐことの無いように。


「信頼されるのってうれしいけど、すごい重たいね。やっぱりドンはすごかったんだなあ」



あははは、と空元気に笑うカロルの頭を、ユーリは勢いよく手のひらでぐしゃぐしゃとかき回した。うわあっとあわてたようにカロルは手を押しのけてくる。



「何すんのさユーリ、いきなり」
「はいはい、湿っぽい話もう終わりな。暑さでどうにかなってるだろ、先生の頭は」
「うわーやめてよ。人がまじめに話してんのにっ」

振りのけられた手で目の前の少年の肩をがっしりつかんで、ユーリは相手の眼を見据えた。



「そうだよ、重いよ。人の信頼ってのはな。そう感じるのが普通なんだよ。
でもそうじゃない奴もいる。心から信じてくれてるって相手を踏みにじるようなやつもな。
そのためにオレたちのギルドがあるんだろ?『宵の明星』、がさ」

ユーリは言葉を続けた。

「責任を感じるな、なんて言わねえよ。むしろ感じてもらわなきゃ困る。でもこれだけは言っておく。別にカロルはそのまんまでいいんだよ」


一瞬目を丸くしたが、カロルはすぐに力強くうなずいた。
そしてやっと心からほっとしたような、すっきりしたような晴れやかな笑顔を見せた。


「ちょっとくさかったね、今のユーリの台詞」
「さーあ、カロル大先生のネーミングセンスにはかなわないけどな」
「うわひどいユーリ。ボクいつもまじめに考えてるのに」
「実はだな、ギルド命名の時はどんなにエステルに感謝したかっていうとな」
「えーーーーー?!初耳だよそれ」

すこし日差しが傾いてきている。

この分だとまだまだ待ちぼうけをくらうなと思いつつ、それでもユーリはまあ退屈はしないだろ、と考えていた。




「それにしても来ないね、みんな」
「まあいいんじゃねえか、待つのも。たまには」
































- waiting in vain -










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