冗花



僕は昔から、夏になると、嫌になる。
 「夏は大嫌いだ」などくだらないわけではなく、嫌いより、むしろ怖い。
夏の光と影は他の季節と比べて、明らかに強烈的で、生き生きしている花草が輝けば、その裏の影が暗くなる。
 そんな闇に飲み込まれるのを怖くて、夏の昼に出かけるのもいつも嫌だ。
 よく考えると、それはあの夏の影に、僕は政子に出会ったからかもしれない。その時の僕は九歳で、政子は十四歳だった。
逃げたいときでも有れば、逃げる場所がない。今の僕は、まさにこういう状態だ。正直言い、本当は実家なんか帰りつもりがないし、もう誰もいないから帰っても意味ない。けれど、あんな辛い思いは耐えられないから、夜中に仕事場から逃げ出して、何時の間にか、僕はもう駅着いて、バスを乗ってしまった。
『お前はマジでなに考えてのがわかんない!』と先輩が土に付いたヘルメットを投げて、震えてる傷だらけの掌で顔を隠せた。
『ごめん……僕だって、よくわからない……』
 木材の上に座って、先輩の後ろ姿を見つめながら、僕は肩に掛けて濡れたタオルで汗を拭き始めた。工事現場にはまだ機材を運ぶトラックの重い運転音が聞こえる。風に吹かれて、ちょっと落ち着いた僕は思わずぼうーと目の前に麒麟ビールの空缶に埋まれたゴミ袋を見ている。なんで自分はこんなに冷静だろう……と思っている途端、涙が急に止まらなくなってしまった。
『おい司、泣くな……』『これはまるで……俺のせいみたいじゃないか……』
『ごめん、橘先輩……』『僕はもう、疲れた……』
 それはあの日、先輩との最後の会話だった。
 バスに乗ると、いつも窓辺の席選ぶのは、僕の癖だ。外の景色を眺めるうちに、何となく切なくなりそうだけど。十七まで住んでいたこの町は、ちっとも変わらないようだ。思い出したら、家に一番近いコンビニは歩いて20分、バス停までは一時間。でも田舎といっても、未だ神奈川県内だから、どっちにしても微妙な町だ。
「深見台、深見台でございます。」
 車内放送の無機質な声が流れて、僕はこの駅から降りた。五年ぶりの故郷と再会しても、懐かしい気持ちがちっともない。周りは見慣れないものばかり……生まれたばかりの赤ちゃんのように、僕は乾いた目で自分が今立っている土地の風景を、ひとつひとつと確かめている。子供達の笑い声がはっきり聞こえる小学校、キャベツが微かなに枯れている観光農園、と錆びた看板。
 降りたところから僕の住んでいた町には、二十分でも歩かなければならない。枯れたぐらい浅い川を渡って、不気味な森に入って、朱色の鳥居も目立たなくなった稲荷神社に通って、百段の階段を下りて、そこからこそ西深見、僕の住んでいたところ。  家から出るとき、お母さんは泣きながら、僕に合鍵を渡した。
『帰りたいなら、いつでも帰りなさい!』
 どこにも行くとこがないから、やっと帰ったが、今はもう、すでに誰もいないと気が付いたのは、街に入ったのことだ。  さっきの森にまた煩く聞こえる蝉の鳴き声が、あの思い出の坂に歩いた途端、しんっと消えた。風の音も人間のしゃべり声も何もなく、人に不安させる異常な静かだ。手をポケットに入れて、キーホルダーを探せば、自然と他の奴より長い鍵が掌に流れ込む。 この鍵を握りながら、坂を登り始めた僕は、昔の知り合いに会えると微かな期待している。皆はもう、結婚したか、それども次々と上京して、そして僕のように傷だらけになって、またここに戻ったのか……。空に見上げたら、雲一つもない青さだ。太陽の光が眩しくて、僕思わず目を閉じた。自分の足音しか聞こえないこの時間は、何ともいえない違和感が胸に膨らんだ。
ちょっと暑さを感じた僕は、ジャンパを持って、汗拭いたあと、後ろに振り向いた。未だ半分しか登ってないか、と自分に呟いて、ため息してしまった。視野に入ったのは、丘に立てたぎっしり並んだ一戸建の山。全体的黒い屋根に使用し、黒に近い深い海流のように、見るだけでぞっとする不気味な風景である。 それを見ると、僕はまたため息をした。
小さい頃から、お母さんが後ろから手で僕の目を隠さないと、僕は一人でこの坂が登れない。お母さんは『あとちょっとだよ!もうすぐだ』と言って、僕の手を繋ぎ、ゆっくり僕と一緒に上る。あんな高くて嫌な坂にも、お母さんの冷たくて気持ちいい手のおかけで、その一瞬で忘れてしまう。
けど、そんなある日、お母さんの足が止まった。僕は状況分からないまま、お母さんの手を取って:『もう着いた?』と単純に聞いた。 そしたら、電信柱が造った深い闇の影に、一人の女の子が立っていた。彼女の着た紫のセーラー服と蝶々結びは中学生ということを伝えているように、蒸し暑い風の中揺れていた。  じーと見られるのは怖いから、九歳の僕は耐えなくて泣いた。
「ふ……。」
 気が付くと、自分が苦手な坂はもうすでに頂上に立っている。このように歩いて昔のことを思い出すのは、もう何年ぶりだろう……。  道沿いに歩く三四分と、右に木造の一戸建てはあの嫌なこと溢れた家である。五年前はどんな思いを抱いてここから逃げ出すのを、すこしつづ思い出す。でも全部の原因は、あの女と関係あるに自分にも分かる。袖で近衛と筆で書いた名札を拭き、唇を噛んで、僕は庭に入った。  「お帰り」とかなんで言われるわけがない。ここは所詮灰塵まみれの空屋だ。そう考えば、心の何処は穴が開いたように虚しく痛む。ずっと手に握った鍵を取り出し、鍵穴に入れ、カチャっと開けたら、鈍重いな音が空洞な室内に響いた。ただいま、と僕は黙々と囁いた。 「お帰りなさい。」
 トトトンと台所から料理する音が聞こえる。ガスには煮物で沸かした鍋の蓋がリズムよく金属の叩き音を作り上げた。玄関には僕が抜いたばかりのスニーカー以外、女性のサンダル一足があった。でも合鍵を持っている人は、本当に僕以外には、いないはずだが…… 「ツカサがいつか帰ると思ったわ。」やや低い、柔らかいな声が僕の疑問をすべて答えた:「だから先にここに戻ったの。」 「……なんで知てるの?」
「さあ。」  女が振り向いて、僕に今まで見たことのない一番偽ぽい笑顔を見せてくれた:「待ってたわよ、ツカサ。」  もう二度と会いたくない、政子だった。
 初めてあの名前を知ったのは、お父さんの電話から聞いた。
『まさこ!いいかけんにしろう!』
 いつも優しくしてくれて、怒ったことのないお父さんがあんな風に怒鳴りするのははじめて見た。お母さんがこの光景見たら、きっとびっくりするだろうと、あの時の僕そう単純に思った。でもお父さんにそんなに怒っているのまさこというひとは、誰?とずっと悩んでいた。  電話がかかって来た三日後、ある手紙が家に届いた。差出人の名前に「北原 政子」と書いてあった。「雅」の「雅子」とずっと信じて込んだ僕は瞬間に、この会った事ない女性のイメージに完全に変わった。でもそれはあくまでも強気そうな人だなくらい思った。 『お母さん、政子というひとがお父さんに手紙書いたよ!雅子王妃の雅子じゃないよ、これ、北条政子の政子って!この人一昨日お父さんと電話で喧嘩したぞ!ねね!お母さん!』  自分のこと悪意のないお知らせから、自分の家庭に思いつかぬ事態を起こった。手紙を読んだお母さんの顔が、真っ青になってしまい、倒れてしまった。医者さんの診断によって、一ヶ月間の観察しなければならない。その間、僕はおばあさんちに預けられ、また一週間後、地元新聞から、僕がやっと分かった。 『ばあちゃん、わいせつってなに?』
 相手は十四歳の中学生、お父さんの教え子だ。北原政子といい、体育の授業に初めての生理でパニック状態になって、保健医より、クラス担任先生のお父さんに相談したいと……事件はそのときが起こったんだ。でも本人によると、そのあともずっと先生に強要され、関係を続けたせいで、どうどう妊娠という追い掛けないことになってしまった。新聞に載った次の日、お父さんは家の庭で自殺した。  葬式の時、何故かあの女の子も参加して来た。両親とじゃなくて、自分ひとりに。そのとき僕は、あの時坂で出会った女の子ということをやっと分かった。でもどうも中学生に見えない黒いワンピースに似合うあの子は、じーと見つめる僕にぞっとさせた。わざとした口紅とダイヤの首飾りは意外と彼女の身にちっとも違和感がない。あの子の空洞な瞳に何を見ているだろう……父さんじゃないと思う、お母さんでもないみたい、彼女は多分、綺麗になった自分のことしか見えないと、今の僕はそう言いたい。
「いつ戻ったの?」ふっと気が付いて、八年後の政子は僕にこう聞いた。
「着いたばかりだ。政子は?ずっとここに?」
「ううん、仕事やめたて二年前戻ったの、上司と合わないから。」台所から出て、政子は冷たい飲み物を持って来て、僕の前に置いた:「はい、麦茶。」 「あ、どうも。」
「ツカサは?東京に何かでもあったのかしら。」
「いや、別に……」「バイト先の先輩はちょっと喧嘩になって……」
「ツカサらしいね。」政子軽く笑って、僕の隣に座った。そのせいで、僕反射的に避けた、生理的な嫌悪感で。 「おい。」 「なんだよ。ツカサ相変わらず、大袈裟だね。」そう言って、政子は両足を曲げて、リラックスに座り方を変わった。
 気が付いたのは、政子は服のセンスまで変わった。昔から彼女がジーパンを穿くのを一度も見たこともない。彼女は地味色なスカートが好きみたい。化粧もあんまりしない。その割にスッピンの顔はメイクしたあとの顔も殆ど変わらない、いわゆるの素顔美人だ。だから政子は希少に化粧するが、自分に似合う洋服を選び、女らしさだけは絶対忘れない人だ。でも今隣の政子は襟がやや緩んだTシャツと細身のジーパンな格好にしたら、僕は逆に「こいつ誰?」の変な気持ちがしてきた。
「でもまさか君がここに戻るとはな……鍵は誰から貰った?」
「洋介よ。」  お父さんだ、これを聞いて、僕は口を止めた。
「どうしたの?」
「別に……そうか、昔のやつか。」
「私だって帰るところがないだから、ツカサだけここに残るのも可哀相だしね。」
 そう言えば、確か政子は家族の関係はよくない噂があった。お父さんに猥褻行為強要されることに対し、政子の親は怒る表情もなく、ただ『こんなことは今後起こらないように』と硬い答えただけだ。両親に愛されてないでもなく、ただ周りのことには、一般人より無関心だと本人がそう言った。
「とは言え、僕も二十二になったよ。」
「顔はまだ高校生じゃん。」
「そんなことない、最近髭を剃っただけだ。」
「え……髭生えたの?」
「仕事場の皆そうなんだから。」
「意外だね、ツカサも大きくなったな……」
「まあな。」
 こういう風に政子と日常会話するのを思わなかった。暗黙的な了解のおかげで、あの時のことを二人とも一切口にしないからかな。僕は手を伸ばし、一口も飲んでいない麦茶を取った。予想外に冷たいじゃなくて、温い。しかも飲んだら、何か雑物が入れたらしい、僕思わず動く手を止まって:
「何、いたずらか。」
「何を言ってるの?そんなことするわけないでしょう。」
 よくわからないけど、僕はグラスを置いて、マナーモードにした携帯をチェックした。ちょうと着信が来たが、相手は橘先輩だ。今はまだ先輩と話せる気持ちじゃないから、そのまま電話を切った。
 政子両手で体を支え、立ち上がって:
「そうだ。折角帰ったし。洋介たちのお墓参りにしない?」
「……ああ。」
 僕は頷いて、携帯をポケットに戻って:
「五年ぶりだな。」
   


     お父さんが死んでも、僕と政子の関係はそれで終わりにならなかった。政子いったん近衛家人達の目から離れ、四年後また僕たちを嵐に巻き込んだ。
 ちょうと当時お父さんと出会った政子と同じ年になって、思春期の僕は父のないせいで、反抗期は普通の子より激しい。お金持ちのおばあさんに追い詰められ、名門高校に受からければならないプレッシャーがある。お婆さんと喧嘩になったら、家出のもよくあることだ。まだ自分のしたいことも決めてないその時期に、お父さんの参拝に来た政子と出会った。
 十八歳の政子はすっかり変わって、初めて会った時より色気が増えた。葬式の日と同じように黒いスーツを着用して、化粧もなるべく薄くしたと見えるが、何となく雰囲気が違う。中学終わったあと、スナックに仕事を始めたという。人に憧れさせる仕事じゃないだけど、僕はそんな自力で生る政子の姿は羨ましかった。それに対してなにもできない自分には悔しかった。
 両手を合わしてお父さんの写真の前に黙々と何かを祈ったあと、僕の顔を見つめて、政子は真剣に訊いた:
『ツカサ君って将来、なにになりたいの?』
『……君とは関係ない。』
『なんで?ツカサのこと心配するから、どうしても知りたいわ。あ、分かった、まさか洋介のように先生になるわけにはないよね、はは、セクハラ先生。』
『黙れ!親父のことはもうたくさんだ。お前こそ自分で親父のこと誘惑しただろう!中学生の癖に恥じ知らないな!皆はそう言てた!何が生理の相談?!実はずっと前から親父のこと狙っただろう!バレタ時も、葬式の時も、お前全然泣いてないじゃんか!』
『ツカサ君……』政子の目に、もう涙が溢れるほど煌いた。自分が言い過ぎのことを今更気が付き、僕慌てて謝り始めて
『あ、ごめ』
『ツカサ君って、悪い子だね……』
 まだ状況が分からないまま、ドアが閉められ、鍵も締まった。
 夏だから、いつものように、夕立ちが降り始めた。カーテンを越えて、ぼんやりと遠雷が聞こえる。居間の中は暗かった。僕の目に入れる唯ひとつのものは、政子のダイヤのリングをついた指だけ。自分と女の喘ぎ声が小さな部屋に響き、そんな恥知らず姿がすべて死んだお父さんの写真に見せられた。
 十四歳の僕にとってまだ早いが、こんなこと一度体験したらもう止められない。それから僕は政子と頻繁的会うようになった。僕はもちろん政子のことが愛しいなとか思わない。相手もきっとそうだった。なんで僕?と何度も訊いたが、答えはいつも毎回違う。『暇だから』『あなた洋介に似てるだから』『なんとなく』『ツカサかわいくてしょうがないから』、僕も聞くのを飽きて、言い訳を作るのをつい忘れた。
 愛とか恋なんか求めていない。成長期の僕の性欲は怖かった。時々二人の部屋で、時々外で、政子の家でやったことも何回あった。一番印象深いのは政子の服(箪笥?)をかけったら、全部葬式の黒い服を見た時だ。
『なにこれ。』
『葬式のため用意したのよ。』
『こんないらないっしょ?』
『黒い服好きだからよ。』
 確かに君も似合うけど、やりすぎだこれ。僕の文句を聞いても、意味深そうに笑った政子であった。
 でもこんな異常な関係は長く続けはしない。学ラン着たままの僕と裸の政子は台所に抱き合う画面を目撃し、元々体が弱いお母さんは、衝撃で入院し、間もなく鬱で死んだ。本当に最悪の夏だ。
 お母さんの死に僕ずっと自責している。おばさんに政子と会うのを禁止され、僕も理想の高校を受けなかった。二回中退してついやめた。その後家出して、東京にいって、今のバイトを見つけ、長い間フリーターの生活を続く。
 おばあちゃんの葬式が行った時も、出席できなかった。
「ぼーとしないでよ、ツカサ。」
「は、」
 まただ。立ったままで夢を見た。昔のことはあんなに思い出せないのに……お父さんとお母さんのお墓に水をかけて、政子は花鉢に新鮮な菊を変わった。燦々の日差しにかけて、汗が止まらずボツボツと落ちていく。腕で適当に汗を拭き、僕は夕日を見つめる。
「なんか人少ないな……高校時代の友たち一人とも会ってないし、おかしいな……」
「ここはもうお年寄りと子供しか残ってないわ、若者皆ここから出たよ。」
「そんなに田舎でもないのに……せめてまだ関東だぜ。」
「でも二三年前から、住民は激減した……小学校も学生、三四十人ぐらいしかない。」
「そんなに?!」
「ええ、ずっと帰ってこないから何も知らないね、ツカサは。」
「僕二回でも中退したから、同級生は一番人の二倍だから、友たちに結構会えるはずだな……」
「ここに住めば?」
「考える。」
「私と、あの家に。」
「……今は分からない。」
 携帯はまた鳴って、相変わらず橘先輩だ。僕出ようとしたら、政子は僕の手を止まった。
「誰?」
「バイト先の先輩だ。」僕は彼女の行動を無視して、通話ボタンを押し:
「もしもし、近衛ですけど。」
『い……ぞ……み……でんぱ……』
 雑音は凄すぎで、先輩の話は全然聞き取れない。電波がめちゃくちゃみたい。僕もしゃべってみたが、向こうも聞こえないそうで、諦めて電話を切った。
        
 
 
 五日の午後、僕一人で出かけた。
 なんか食事した印象がない。あと寝た覚えもない。電気をつけようとしても政子はそうさせない、エアコンもつけたいけどつけさせないのも彼女だ。ある意味で自分はちょっと監禁生活を味わう気がする。
どうしても昔の友たちに会いたいだから、ぼく母校に行った。でも夏休みのせいで、だれもいない。体育場で一人ぶらぶらしながら、商店街でも寄っていこうと決めた。
買い物する人はないけど、八百屋の中にお年寄りがいる。帰ってから初めて政子以外の人間が見たから、ちょっとホッとした。
「いらっしゃい、お兄ちゃん、今日の西瓜安いぞ。」
 セリフは元気そうだが、八十近いのお爺さんから言い出すと、なんか説得力がない。でも今年の夏はまだ西瓜を食べてないと思い出したら、僕思わず足を止まった。
「いくらっすか。」
「一玉五百円。お兄ちゃんここの人じゃないね。」
「いや、僕近衛家の子っす。でも四五年前、東京に引越したから……」
「へぇ、そっか。近衛か……色んな事件で有名だね、あなた達。」
「……」
「あの女またあんたちに住んでるの?」
「女?」
「北原ちの政子だよ、あの子はいけないんだ。あの子はなにがついてるから、どこに行っても人が死ぬ。」  お年寄りは皆そうだったから、僕もあんまり気にしない。西瓜を一玉買って、お爺さんが僕に尋ねた: 「おい、兄ちゃんこれからここに住む気あるかい?」
「何で?」
「ここ若者はもうないよ、皆東京に行ったから、誰も残してくれないぜ。」  僕は苦笑いでごまかし、店から出た。すると、目の前にどこか見たことある丸顔の若い主婦が魚屋さんに立っている。知人を見つけた嬉しいさが押さえきれず、僕が走り出した。
「おい、絵梨花?絵梨花だよな?!」
「なんなん……?つかちゃん?!うわ!めっちゃ懐かしい!いつ戻ったの?!」
「先週……なんだ、お前結婚したのか。」
「もう二年だよ、子供ももう一歳。」
「早いなお前……相手は?僕の知っている人?」
「ううん、絶対知らないと思う。イメクラでバイトした時知り合った人なの。」
「はは?」
「あたしも上京したよ、つかちゃんの行ったあと。でもなにもかんもめちゃくちゃになってるから、すぐ疲れた、結局やっば家に戻って、おとなしく主婦を専念しようと。」
「偉い偉い、あのじゃじゃ馬絵梨花はね……すごいな……」
「つかちゃんは?」
「何も、つか何したいのを今もわかんない。」
「あんたいつも人を合わせるしかできないんだから、こうなってもおかしくない……」
 僕たちは商店街沿いに歩く。久しぶりのおさなじみに会えるこのことは、僕に安堵感を与えた。絵梨花と昔のくだらないことを喋って盛り上がる中、僕一時に政子との間の緊張感忘れることをできた。
「え、じゃ今あの家に泊まってるの?」
「あ、ん、駄目か?」
「やめろよ、怖くなくない?」
「何で?」
「だって、つかちゃんのお父さんお母さん皆そこで死んだでしょう?これだけでもう十分怖いよ!目を覚めて!この鈍感馬鹿!」
「うるさいよ貧乳主婦。」
「酷い!」
 と絵梨花と会話に夢中した時、携帯はまた鳴った。
 先輩で決まっている。でももう出ないと決めた。
「誰?」
「気にしなくていいの。」僕電話を切り、気にしないフリする。
 なのに、その直後、二回、三回、電話が終わらないように来てた。どんな大事なことはこんな急ぐ言わなければならないと僕が疑った。結局絵梨花の見つめるままに、僕は通話ボタンを押した:
「もしもし、近衛です。」
『どこ行ったの?!』と、この怒鳴り声しか聞こえないまま、通話は中断した。
「……」僕は手の中にある携帯を見つめ、ため息した:「こっちの電波悪そうだな……」
「そう?」人の話聞いてない絵梨花は右手の荷物を左手に変わり:「ね、つかちゃんはさ、ここに長く住むよね?」
「え?いや、そんな……」
「都市にまあまあ近いし、結構いいじゃない?それにさぁ、いつか帰るじゃん?だから今の」
「おかしいな……おかしいよ……」
「何がおかしい?」
「深見って、こんな人少ないんだっけ?」
「あなたは分からないよ、わたしたちの気持ち」「残された人の気持ちが……」
 非常に不愉快な言い方だと僕が思う。最後道に分かれる時、お互いサヨナラも言わないまま自分の道を進んだ。
 家に戻って、政子と二人でスイカを食べようと思ったら、
「あら、」刀でスイカを割れた政子は驚いて:「腐ったよこれ。」
 割れたヒビから流れ出したのは、暗く赤い汁だ。刺激な臭いが部屋に漂って、なかなか消えない。



 どうしても先輩の電話が気になる。いや、気になった。あんな無口で落ち着く先輩はこんな神経質に十数回まで電話するなんで初めてらしい。
 けど日々を流れると共に、自分はこの町から離れる意志はますます弱くなっていく。たまたま町の人にあっても、きっと「ここに残して」という話が出ってくる。僕がいるべきか、離れるべきか、正直言い、非常に迷う。
「な、携帯充電したいんだけど、」
「どうせ使わないから、意味ないの、それにしてもこの家、電力は入っていないし。」と政子前のように軽く僕の要求を断った。
「入っていない?どういうこと?!」「今まで僕たちは普通にここで生活しているじゃないか……だって電気が」
 気が付くと、電気が確かに着いてない。今昼だから電気をつける必要なんでない。外からサンサンの日光は眩しくカーテンに漏れてくるくらい明るいから電気なんかいらない。
 クーラーもつけていない、窓開けているから潮風はいつでも部屋に流れ込む。中はやや暑いだけど我慢できない程度じゃない。
 僕は目が覚めるように見えた。政子は料理なんか一度も作ったことない。二人のいるこの時間にテレビも見ない。買い物してもすぐ腐っちゃうから冷蔵庫も全然必要がない。僕たちはただ蝉の鳴き声を聞きながら、自分の無残な過去を忘れるために、ちゃんと生きるふりをしている。結局、僕と政子はまたあの罪の夏に閉じこまれている。
「いつからだろう……」
「さあ、夏が終わらないから気にしなくてもいいんじゃない。」政子が微笑んだ。相変わらずあの笑顔。
政子はいつも誰かを死んだのを待っている。葬式を参加するのは政子の唯一の楽しみ。もう目が覚めることのできない人に、自分はまた生きていることを自慢するのは、彼女の生きる甲斐かも知れない。
 でも今はもうどうでもいい。僕もこのままこずっとここにいたいかもしれない。終わらない夏に自分の時間を止まって、嫌なことなどすべて忘れそうなこの季節の変わらない空間で暮らしたい。
「僕たち、おかしくないかな……」
「そんなことないよ。」
 僕はベランダーのドアを開けて、外に座った。政子もついて来て、僕の隣に頭を下ろして:
「ずっと一緒に、ここにいよう。」
「それは……いいかもな。」
 空を見ると、そこにあるのは真白な光だ。横の政子は顔を近付いて、僕に口付けをした。
 あの高い坂に、誰かが立っている。黒いワンピースを着て、葬式を待っている。でももう彼女のために死ねる人が、誰もいない。それでも彼女が待っている。毎年に咲くひまわりのように、空を見上げながら待っている。完璧な黒に染めた彼女の姿はなによりも眩しく、夏の影と混ぜ合わせられ、一体になっていく。
「……は!」
 電源はもうすでに使い尽くした携帯が鳴った。僕ふっと動き出し、迷わず通話ボタンを押した:
「……先輩?」
『この馬鹿野郎!!お前今どこにいるんだ?!』
「実家で……」
『実家なんでもうないってつったろう!自分が言ったことくらい覚えろう!』
「いや、本当に実家で避暑ですけど……」
『お前頭でもおかしくなったか?今は何月ってちゃんと見てみろ!』
 僕が驚いた。先輩からの着信履歴は十一月から二月まで、すべて真冬。
「何、」
『今一体どこにいんの?!四が月間全然連絡取れないつの!』『お前はお前はな、他人のこと構いすぎるんだ。自分のことくらいまず考えろう!』
 と言われた瞬間。僕は覚めた。
 電気のない屋敷に真っ青に見える。骨まで沁みる冷たい風は止まらずに窓から入り込む、今座っているとこが灰塵まみれで、何年とも掃除してない部屋である。台風に近い大雨は屋根を叩いて、水粒は少しつづたたみに落ちていて、いくつかの丸を作った。
 でも入ったとき飲んだ麦茶はまた置いてある、底も見えない墨並みの麦茶が。



「落ち着いたか。」
「うん……」
 僕はとあるダムの橋に発見されたみたい。四が月間の空白に、僕は失踪人口に扱いされたらしい。そのあとのことはよく覚えなくて、何かあったのもよく言えない。
「あれは多分お前の自己暗示じゃない?お前神経質だから。」
「いや、でもリアルしすぎるだし……」
「最後電話するとき、水の中にいるように聞こえるぞ、お前海に落ちたと思った……」
「……水?」  橘先輩は電車のドアに向いて、景色を見ながら続いて言った:
「とにかくお前が出会ったものは、もう真実なものじゃないということが分かって欲しい。事務所の皆、お前のことを心配してるぜ。」
「そうですか……ごめんなさい……お迷惑を掛けました……」
「いいえ、帰れることは一番だ。」「でも例のことは……」
「……僕、考えます……」
「ならいい。」先輩が恥ずかしそうに笑って、両手を胸に収まった。電車の窓から漏れた夕陽に包まれ、今更僕は本物の現実世界に戻った実感がある。
「そう言えば、」僕は窓の外に、電車の車体が造った陰を見つめて、何気なく先輩に訊いた:「なんで夏になると、死んだ人が増えるんですかね……」
「ん?」「それはな……多分暑すぎで、耐えないお年寄りはガンガン死んだじゃないか?」
「そうかな……そうかもしれませんな……」
 窓の反射に、僕は反対側にいる葬式帰りの女性たちを見ていた。
 多分今でも、あの高い坂で、雲のない青空と鮮やかなひまわりをバックにして、彼女は大好きな黒いワンピースを着て、僕の死体を運んで行くのを待っている。






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